「朝起きると顎が重だるい」「大きな口を開けるのが怖い」。
そんな経験はありませんか?

今回は、長年の顎関節症に悩み、マウスピース治療の限界を感じて当院(オステオパシー)を訪れた30代女性の改善ケースをご紹介します。
来院までの経緯:ある朝突然、口が開かなくなった
K.M様(38歳・人事労務職)
K.Mさんが顎の異変を感じ始めたのは高校生の頃でした。「カクッ」という音(クリック音)はありましたが、痛みはなかったため放置していました。
しかし3ヶ月前の繁忙期、朝起きると口が指1本分しか開かない「ロック」状態を経験。「また開かなくなるのでは」という恐怖に襲われ、近所の歯科医院を受診しました。
診断は「顎関節症」。
マウスピース(ナイトガード)を作成し就寝時に装着しましたが、朝の顎の疲れは少し減ったものの、日中の「カクッ」という音や痛みは変わりません。根本的な解決が見えず、当院へ来院されました。
症状による「困り事」
K.Mさんのお悩みは、顎関節症の方なら誰もが共感するものでした。
- あくびが怖い
「ガクッ」と外れるような音が怖くて、思い切りあくびができません。 - 食事が楽しめない
お肉や硬いせんべいを避け、小さく切って食べていました。 - 仕事中の違和感
デスクワーク中、口を動かしていないのに頬やこめかみが締め付けられるように痛みます。
またK.Mさんが抱えていたのは痛みだけではありません。
- 気にしすぎ?
痛いのに「噛み合わせに異常はない」と言われると、「私の気にしすぎなのかな?」という気持ちになっていました。 - 手術の不安
ネットには「場合によって手術」と書かれており、不安が常に頭をよぎっていました。
症状を引き起こす背景(オステオパシー機能障害)
私たちはK.Mさんの体を「顎だけ」でなく「全身のユニット」として評価しました。その結果、顎の痛みの裏に隠された4つの機能障害が見つかりました。
1. 右顎関節円板のズレと筋肉の過緊張

右の顎関節にあるクッション(関節円板)が前方にズレており、口を開けるたびに骨が円板に乗り上げる音(クリック音)がしていました。これを引き起こしていた犯人は、顎の奥にある外側翼突筋(がいそくよくつきん)の上頭。この筋肉が異常に緊張し、円板を無理やり前へ引っ張り続けていたのです。
2. 頭蓋骨(側頭骨)のねじれ
顎関節の受け皿である「側頭骨」が内側にねじれてロックされていました。受け皿が歪んでいるため、下顎がスムーズに動くスペースがなくなっていました。

3. 「首(頚椎)」と「姿勢」の崩れ
K.Mさんは典型的な猫背(頭部前方位)でした。頭が前に出ると、バランスを取るために下顎は後ろへ押し込まれます。これにより顎関節の後部組織が圧迫されていました。さらに、首の上部(第1頚椎)が右にねじれており、これが神経を介して顎の筋肉の緊張を強めていました。

4. 呼吸と筋膜の連鎖

ここが盲点でした。ストレスと浅い呼吸により、横隔膜や胸の周りの筋膜がガチガチに固まっていました。この筋膜は首を通って顎の下(舌骨)まで繋がっています。つまり、呼吸が浅いために体が下方向へ縮こまり、顎を下に引っ張り続けていたのです。
変化:体が整うと、顎は自然に動き出す
施術の目的は、顎を無理やり治すことではなく、「顎にかかっている過剰な負荷(荷物)」を一つずつ降ろしてあげることです。

- 筋膜リリース
まず横隔膜と胸郭を緩め、顎を下に引っ張る力を解除しました。 - 頚椎・頭蓋の調整
首のねじれを取り、側頭骨の動きを正常化して、顎関節の「スペース」を広げました。 - 筋肉の調整
最後に、緊張していた外側翼突筋をソフトに緩めました。
【結果】
初回後に口が開けやすくなり、数回の施術後、K.Mさんの開口時のクリック音は消失し、痛みなく口が開くようになりました。「朝起きた時の顎の軽さが全然違う」と驚かれ、長年の偏頭痛も解消しました。
なぜ歪みが出たのか?
K.Mさんの場合、「姿勢と呼吸の崩れが、最終的に顎に出た」のです。
- 生活習慣
1日8時間のPC作業による猫背と、無意識の食いしばり(TCH)。 - 精神的要因
仕事の責任感からくるストレスが交感神経を優位にし、全身の筋肉を硬直させていました。 - 解剖学的要因
顎を支える蝶下顎靭帯などが、悪い姿勢によって常に引っ張られ、顎の動きを制限するストッパーになってしまっていました。
これらが複雑に絡み合い、最終的に「最も動きが多く、繊細な関節」である顎にシワ寄せが来ていたのです。
自宅ケア:今日からできること
顎関節症は「生活習慣病」の側面もあります。K.Mさんにも指導したケアをご紹介します。
やるべきこと


- 舌(べろ)の位置を正す
舌の先を上の前歯の裏(触れない程度)に置き、舌全体を上顎に吸い付けます(スポット)。これが顎の正しい安静位置です。 - 「あー」ではなく「はー」で開ける
口を開ける際、顎を突き出すのではなく、頭を少し後ろに傾けながら「はー」と脱力して開ける練習をします。 - 耳のマッサージ
耳を軽く横や上下に引っ張って回します。側頭骨が緩み、顎のスペースが広がりやすくなります。
やってはいけないこと

- × わざと音を鳴らす
「カクッ」となるか確認したくなりますが、軟骨をすり減らすので絶対にやめましょう。 - × 無理に大きく開ける
痛いのに無理に開口練習をすると、反射的に筋肉が硬くなり逆効果です。 - × 頬杖をつく・うつ伏せ寝
顎に体重がかかり、関節をズレさせる大きな原因になります。
まとめ
顎の痛みは、体からの「もう限界だよ」というサインです。
K.Mさんのように、骨盤や背骨、呼吸といった「全身のつながり」を見直すことで、長年の顎の悩みから解放される可能性は十分にあります。
「私の顎も、もしかしたら体全体のせいかも?」と思ったら、まずはご相談ください。
